帯は、なぜ高いのか。西陣の織屋が、モノづくり現場から答えます

帯は、なぜ高いのか。西陣の織屋が、モノづくり現場から答えます

「なんで帯って、こんなに高いんですか?」

よく聞かれる質問です。着物を着始めた方、
プレゼントを探している方、ふと呉服屋に立ち寄った方。

10万、20万、ものによっては100万を超える帯が普通に並んでいる。
疑問に思うのは当然だと思います。

私たちは京都・西陣で帯を織っている織屋、となみ織物です。
毎日モノづくりの現場にいる立場から、
この質問にできるだけ具体的に答えてみます。

一本の帯に、どれだけの時間がかかるのか

帯の制作期間は、早いもので約1ヶ月。
凝ったものになると1年を超えます。

工程を並べると、まず文様・配色・織組織を決めるデザイン設計。
ここだけで数週間かかることもあります。

次に織物の設計図である「意匠図」の制作。
どの織物で織るか、どの季節に結ぶか、どんな糸を使うか、ここで決まります。

それから試験織。
試行錯誤を繰り返して、最初のイメージに近づけていきます。
そこまで来て、ようやく本番の製織です。

最後の「織る」工程が機械であっても、
そこに至る工程は自動化できません。

そして西陣は分業の町です。
糸を染める職人、機を仕立てる職人、
経糸を整える職人、織る職人。

一本の帯は、それぞれ独立した職人の手を順番に通ってきます。

 

帯の設計図は、想像より大きい

和紙の意匠図。左の小さい方が帯図案(横幅約30cm)

かつての意匠図は和紙に手で描かれていました。
帯の図案の横幅が約30cm。意匠図はその何倍もの大きさです。

初めて見た方はみなさん、
帯のためにこんな巨大な設計図を描くのかと驚かれます。

拡大すると小さなマス目。一マスが経糸と緯糸の交差点

拡大すると、小さなマス目が見えてきます。
この一番小さな一マスが、経糸と緯糸が交差する点。

この点に色を入れることで、経糸をどう上下させて柄を出すかを設計します。
細かな箇所は一マスごとに色を入れて、織でぼかしのような表現を狙う。

マス目の一つ一つが、職人への指示です。

この和紙の意匠図で最も時間がかかったのは『京百景図』クラスの柄。

意匠図の制作だけで1年を超えています。
いまはPC上の作業に置き換わりましたが、
うちではこの大きさの紋図を作っていた最後の世代が、まだ現場にいます。


機を仕立てる職人——帯づくりの「核」

織り始める前に、「綜絖(そうこう)」という仕事があります。
織組織を設計して、機の骨格部分を組み上げる仕事。
帯づくりの核と言っていい工程です。

うちの代表的な織物である総紗縫は、
ある遺跡から発掘された裂地を分解・復元した技術が源流にあります。

綜絖の師匠の言葉を借りれば、
「元となった織物への本質的な理解がない限り、この織物は他社ではコピーできない」。

値段の中には、こういう目に見えない技術の蓄積が入っています。
 → 織組織『総紗縫』について


値段は、見えない場所で決まる

帯の裏側。表に出る糸は僅かでも、裏にはこれだけの糸が「渡る」

帯の裏側を見たことはありますか?
表に出てくる糸はほんの僅かでも、裏側にはその何倍もの糸が「渡って」います。

この渡る糸をどう処理するかで、表の色の見え方と帯の軽さが変わります。
私たちは、裏糸が表の色に干渉しないこと、
帯が少しでも軽くなることを考えて、渡りは基本的に少なくする方向で設計しています。

締めたときの軽さの違いは、ここで生まれます。

もう一つ、社内では当たり前すぎて語りそびれてきた話を。
袋帯は表と裏を織って合わせますが、うちの紹巴織では、
表を織り上げたら間髪入れずに裏を織り始めます。

同じ糸を使い、同じ職人が、同じ湿度・気温の中で織る。
環境が限りなく近い状態で生まれた二枚の帯地は、
仕立てたとき、まるで元から一枚だったかのような一体感を持ちます。

仕立てにも小さな秘密があります。
表と裏を合わせるとき、パツパツに張り詰めず、
ほんの少しの「遊び」を作る。

知らない人が見ると仕立てのムラに見えますが、
このゆとりがあるから、帯を身体に沿わせたときにアールが生まれ、
心地よく結べます。
→ あわせて読む:縦と経、横と緯のこと


「結びやすさ」も、設計されている

帯のデザインは、必ずお太鼓から始まります。

お太鼓結びの始まりは江戸時代の後期、
深川の芸者が亀戸天神の太鼓橋で
帯の後ろを持ち上げて紐で結んだことと言われています。

明治に入って一般に広まった理由は、
動きやすさと、背中に高さが出ることで姿勢がよく見えること。

お太鼓結びが定番になったことで、
帯の柄を見せる場所も「お太鼓」と「前腹」の2か所に決まり、
いまの帯の設計は、すべてこの2か所を意識して制作しています。

本袋の帯端。筒状に織るため、耳に縫い目がない

織り方そのもので結びやすさを作ることもあります。

「本袋」という織組織は、表と裏を最初から筒状に一緒に織ります。
裏返した状態で織り上げ、職人がひっくり返して初めて柄が現れる。

織っている最中は正しく織れているか確認できません。
手間はかかりますが、表と裏が一枚の絹織物のように一緒に動くので、
結ぶときに完璧に身体に沿います。


高い帯が、いい帯とは限らない

ここまで書いてきて言うのも変ですが、正直な話をします。

金糸を使えば織る速度は落ちます。
細かい格子や繊細なぼかしは糸の本数が増えます。

いろいろなことが組み合わさって、
帯の値段は「高くしている」のではなく「そうなってしまう」。
これが現場の実感です。

ただ、高い帯がすべていい帯かというと、
そうではありません。

大事なのは、着る人が結ぶ瞬間に「これを選んでよかった」
と感じられるかどうか。

私たちは帯を作るとき、
いつも誰かが結ぶ瞬間を想像しながら作っています。


実物で確かめてください

ここまで書いたことは、写真では半分も伝わりません。
手に取れば、軽さと締め心地で分かります。

ほんの一部にはなりますが、京都のショールーム(予約制)
でも実物をご覧いただけます。
 → https://senpukuya.jp/pages/showroom



オンラインショップでは、八寸名古屋帯角帯半巾帯
帯まわりの小物をご覧いただけます。

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記事執筆者 / 五代目仙福屋宗介

となみ織物5代目(専務)